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競馬ニュースを中心に、レース回顧、POG、一口についてのタワゴト。他にフロンターレとかアニメとか・・・でした。

【第88回東京優駿回顧】新時代の予兆にほろ苦く待ったをかける福永祐一のストーリー強度

去年、そして今年のオークスに引き続き無敗の二冠のかかる形となったダービー。1番人気は当然のごとくエフフォーリア。以下は皐月賞組は勝負付けは済んだとばかりに、サトノレイナス、グレートマジシャンと別路線組が人気上位となった。昨年関東リーディングを奪取し、勢いに乗る若武者、横山武史をベテラン達どのように包囲するのかに注目が集まる形で第88回日本ダービーはゲートインを迎えた。

直前の輪乗りでは流石に表情に硬さの窺えた横山武史とエフフォーリアだったが、ゲートはスムーズ。全馬収まると綺麗なスタートとなった。最内のエフフォーリアも勇気をもって出していく構え。戦前の予想通りにバスラットレオンがハナを奪いにいき、2番手はタイトルホルダー。隊列自体は比較的早めに落ち着き、淡々とした流れになるかと思われて向こう正面に入ったが、ここでバスラットレオンが想定以上にペースを落としたのが、今年のダービーの1つめのアヤとなる。絶好のポケットを取れたと思われたエフフォーリアは少し噛んでしまったのも目立ったが、何よりここでサトノレイナスが外枠で壁を作れずにじわじわとポジションを上げていく。前半の1000mは1.00.3で流れるもこの緩急にグッと馬群が詰まった形に。レース後のコメントからはマイルの経験しかなかったサトノレイナスが我慢できなかったということになるが、レイデオロの記憶も新しい騎手達が好位に上がるルメールを放っておけるはずがない。結果として、4コーナー手前から急激にペースアップする展開に。直線に入るとサトノレイナスが馬場の真ん中から進出。エフフォーリアも前が空いたことで半ば強制的に1番人気としてスパートを余儀なくされる。外にヨレながらも先頭に立つエフフォーリア。早めの仕掛けで止まるサトノレイナス。いったんは勝利は無敗の皐月賞馬に傾いたに見えたが、馬場をまっすぐ伸びてきたのがシャフリヤール。ラスト50mの激しい叩き合いの結果、ゴールの瞬間のクビの上げ下げでハナ差先着したのはシャフリヤール。二冠馬誕生、横山武史のダービー制覇は寸前でこぼれ落ちる結果となった。

勝ったシャフリヤールは毎日杯1着から4戦目でのダービー制覇。何より今日は福永祐一の落ち着いた手綱捌きが光った一戦となった。3コーナー手前では内外あれどエフフォーリアと同じような位置取りで上がりタイムも同一の33.4。しかし共同通信杯での敗戦を生かした形で、焦らずにゴール板まで一気に脚を使い切る形でのスパート。本人は「馬の力に助けられた」とのコメントだが、負けることを怖がらずに能力を出し切るエスコートができたのは、ダービーの勝ち方を知ってしまった騎手の手腕。自身のキングヘイローのダービーと違って、堂々とした90点以上のレースぶりを見せた若武者に、経験の差で壁として立ちはだかった上に、エピファネイアの借りをエピファネイア産駒に返してしまうのだから、これが競馬の非情でもあり面白いところ。どうしても多感な競馬初心者の時期を1997年スタートにしてしまった身としては、日本競馬の主人公はサンデーサイレンス武豊なれど、裏主人公は福永祐一なのである。天才二世の生まれで関係者のバックアップがありながら、凡庸な才能しかなく、下手くそと言われ、失敗をし続けてきても、諦めずに理論と努力を重ねて、三冠馬ジョッキーとなり、ダービー3勝目で若手の壁として立ちはだかる「福永祐一のストーリー」には、愛憎入り交じった感情移入から逃れられない。もちろん「経験値」に還元されたワールドエースエピファネイアリアルスティールは堪ったものではないだろうが、ここまでくるともうこれは競馬の神様が福永洋一にとんでもなり借りを作ってしまったがゆえの、日本競馬の運命とまで言えるのかもしれない。いやでも競馬始めたときは、二十数年後に福永祐一にここまで感情揺さぶられるとは思ってなかったよ、マジで。シャフリヤールは444キロとディープインパクト晩年にして、似たサイズ感でのダービー制覇。兄アルアイン、馬体からみても今後距離が伸びて良いようには見えないが、父亡き今となっては2000m路線に絞って、種牡馬価値を上げて欲しいという思い。菊花賞に出てきたら嫌いたい。

2着のエフフォーリア。横山武史には悔しくて悔しくて堪らないであろう敗戦。レースぶりは堂々としたもので決して騎乗ミスで負けたわけではなかった。ただ90点の騎乗をしても勝てない、そして次にいつ勝てるのかもわからないのがダービーの怖さ。結果論としては皐月賞で上手くいきすぎたことで「負けパターン」を感じられずに無敗でダービーを迎えてしまったことで、自分からレースを支配するような競馬を出来なかったことが敗因か。800mの瞬発力勝負となるのであれば、自ら動いてじわっと加速する流れに持って行きたかったところだが、内枠も経験もそれを許さなかった。これが武豊であれば皐月賞で「脚を測る試走」ができるのであろうが、結果を出し続けなければいけない立場の若手騎手にはそれが難しい。逃した結果は大きすぎたし、軽々しく次のチャンスがあると言えるわけではないが、それでもこれから10年20年。偉大なる父を持つという点では似た境遇の横山武史のストーリーを見守り続けたい。

3着のステラヴェローチェは力を出し切った3着。貴重なバゴ産駒の牡馬だけにどこかで大きなタイトルを獲って欲しい。まだまだ変わる余地があろう血統だけに秋以降の飛躍に期待。4着グレートマジシャンは素質を評価されたが、間に合わなかった。ただこの血統、パンとしたらいいつつ、パンとするイメージがわかないので、今後も人気するようなら嫌い続けたい。サトノレイナスはマイルまでの経験しかなかったことで、緩急のあるラップに戸惑ったのが最大の敗因か。ワンターンの1800と1600にそれほどの違いが出るイメージはわかなかったが、ダービーに挑むのであればやはり緩急あるラップと1800以上の経験は重視するべきと言うのが今回の教訓か。

騎手も血統も歴史が動くかに思われた2021年のダービーではあるが、終わってみればまだまだベテランとディープインパクトの意地を見せられた結果となった。ただ何を言ってもディープインパクトの時代は終わるし、今日の敗戦は横山武史の貴重な経験となった。今日のこのダービーが20年後のダービーにどう繋がるのか、毎年毎年の積み重ねに期待しながら、来週から始まる2022年のダービーへのスタートを楽しみたい。