BrainSquall

競馬ニュースを中心に、レース回顧、POG、一口についてのタワゴト。他にフロンターレとかアニメとか・・・でした。

【第87回東京優駿回顧】その飛行機雲の指し示す先は日本競馬の次なるステージ

covid-19の影響による無観客が続いた2020年の春競馬。他のスポーツが中止を余儀なくされる中、いつ開催中止となるかもわからない状況が続いたが、関係者の尽力もあり第87回の日本ダービーは予定通り5月31日に発走を迎えることができた。

想定外の競馬も父を彷彿とさせる末脚で皐月賞を制したコントレイルが堂々の1番人気。朝日杯FSの覇者で皐月賞2着のサリオスが2番人気。2歳G1を制した2頭が皐月賞を強い競馬で1,2着。前哨戦も皐月賞組となれば、世間がこの2強のダービーと評価するのも当然であった。離れた3番人気は皐月賞をスキップした未知の魅力と鞍上が評価されたかワーケア。弥生賞を勝ち、鞍上を武豊に4番人気のサトノフラッグまでが逆転の目を残しているかもしれない……といったところが戦前の評価。

例年よりも国歌斉唱からゲートインまでが早く感じられたのはダービーを現地で観戦できなかったのが20年ぶりだったためか、それとも無観客だったため段取りがスムーズだったのか。去年のような不穏な雰囲気もなく、レースがスタートすると直後に大外からウインカーネリアンがハナを主張する。サリオスは後方に。皐月賞と違って、2歳時のレースさながらにスムーズに好位を追走できたコントレイルは、逃げ馬の後ろ、ポケットに収まる。外と斜め前に同じ勝負服が並んだノースヒルズフォーメーションが完成すると、緩い流れにも折り合いに不安を見せずに流れるように追走。向こう正面に入って、外から横山典のマイラプソディがスタンドにはいない観客に応えるように外から進出してハナに立つが、馬群に大きな動きはない。サリオスは中団外を追走。そのままの隊形で4コーナーを回って直線へ。好位から少し馬場の真ん中に出したコントレイルの前が空く。まだ持ったまま。大外からサリオスが素晴らしい末脚で伸びてくる。坂下から仕掛けはじめたコントレイルとの差が一瞬縮まる。ここから一騎打ちかと思った府中の坂上。しかしコントレイルのギアがもう一段上がると、あとは突き放す一方。終わってみれば3馬身差の圧勝で父ディープインパクト以来の無敗の二冠馬が誕生した。

勝ったコントレイルは圧倒的な脚力とパーフェクトな騎乗により抜けた世代最強馬であることを見せつけた。レース前もレース中もレース後も、一瞬も勝利が揺るぐ気配を感じさせなかった。鞍上の福永祐一の騎乗ぶりからは、かつてのような若さや弱さはなく、更に言えワグネリアンのときのような開き直りすら感じさせない泰然自若さが感じられた。適度な緊張感とリラックスさを感じさせるレース前のセレモニーの表情通りに、レースも圧倒的1番人気を冷静かつ完璧に愛馬をエスコート。まさにダービーの勝ち方を知っている騎手の所作であったと言えよう。その姿には、かつてシルバーコレクターと揶揄されながらも悲願のリーグ制覇から3年連続でタイトルを獲得したフロンターレを重ね合わせてしまった。矛盾した物言いながらよく言われる「タイトルを獲るまでタイトルの獲るのに必要なことはわからない」というのはダービージョッキーにしても同様なのかもしれない。

そしてコントレイル。ホープフルSで見せた距離に限界があるような走りとも、二の脚がつかずに乱暴な競馬を能力で叩き伏せた皐月賞とも違う、大人な競馬でダービーを勝って見せた。フィリーサイヤーかと思わせる牝馬への偏りも、父と似合わぬ大型の馬体のこれまでの牡馬後継とも違う460kgの中型の馬体と圧倒的な脚力。日本中の競馬ファンが待ち望んだディープインパクトの最高傑作の牡馬がここに誕生したことは間違いない。現時点の走りを見れば好位から前受けできるという点では父すら越える可能性すら感じさせる。英雄から生まれた救世主と呼んでも差し支えはないのではないだろうか。

2着サリオスも本来であればダービー馬となっていたような素晴らしい末脚。3着との1と3/4馬身を考えても、とにかく相手が悪かったとしかいいようがない。とはいえ、こちらも本来は古馬になってから真価を魅せるハーツクライ産駒。もちろん2歳G1を勝つほどの本馬が同様の成長曲線を見せられるかは未知数だが、コントレイルを逆転できる日を諦める必要はまだないだろう。ただ距離伸びて良いとは思えず、その舞台はあるとすれば府中2000mになるのではないか。

3着ヴェルトライゼンデは低評価を覆しての3着。2歳時はもとより募集時から高い評価を与えられていた同馬が10番人気は少し舐められすぎだったか。こちらは距離伸びてパフォーマンスが上がることが期待できそう。秋に二冠馬に一泡吹かせるのは、鞍上福永祐一のダービー1番人気で敗北したワールドエースの弟かもしれない。そのダービーを勝ったのは矢作師のディープブリランテであるわけだが。

4着サトノインプレッサはダービー初騎乗の坂井瑠星。冷静にコースを選択した見事な騎乗ぶりだった。ワーケア、マイラブソディは良くなるは古馬になってか。それと毎度毎度後続に遊ばれるようなスローな逃げしか打てないのは田辺には呆れるばかり。ジェネラーレウーノの菊花賞といい、持ち味を潰すばかりなのでスクリーンヒーロー産駒から出禁にしたい。

2020年のダービーは無事に終わった。改めて難しい社会情勢の中で開催にこぎ着けた関係者の尽力には感謝したい。競馬はどのような状況でも、続けて繋がることがそのレゾンデートル。その繋がりは見事に残り少ない産駒の中からディープインパクトの最高傑作を生み出した。ダービーに乗るだけで真っ青だった若者が、泰然自若とダービーを勝てるように円熟することを見せてくれた。初騎乗で4着だった坂井瑠星や、前週のオークスで二冠を制した成長著しい松山弘平からは次の世代の息吹が感じられる。来週からはモーリスやドゥラメンテの産駒が競馬場に登場する。レース後にコントレイルは秋は菊花賞を目指すことが発表された。三冠馬から三冠馬。その先にあるのは日本競馬の第一部フィナーレか。いやその結果がどのような形なるとしても、確かに日本競馬は次のステージに向かっていることを感じさせられた第87回の東京優駿であった。