BrainSquall

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【第82回優駿牝馬】マイネル悲願の初クラシック制覇に日本競馬のストーリーイベント完結を見る

二年連続で無敗の二冠、しかも白毛桜花賞馬の参戦に盛り上がった2021年のオークス。1番人気は当然のことながらソダシ。2番人気は三冠×三冠のアカイトリノムスメ。離れた3番人気にユーバーレーベン。金子馬二強ムードでゲートインを迎えた。

スタートすると大方の予想通り、クールキャットがハナに立つ素振りを見せて、ソダシも好位に取りつく構えを見せるが、大外からステラリアが掛かり気味に先頭へ。結果的に隊列が落ち着いたのが2コーナーを回ったあたり。想定よりも速い流れになったことが、結果的には最後まで影響したように見えた序盤の動きであった。向こう正面ではソダシが4番手。アカイトリノムスメは先行集団の馬群の中で脚を溜める。いったん流れは落ち着いたかが見えたが、外からジワッとユーバーレーベンがポジションをあげると、更にその前のステラリアとスライリーは4コーナー入り口では外から先頭を被せる形。例年のオークスよりスタミナを問われる流れとなることが確定的になって直線を迎える。直線に入ると抜け出そうとするソダシの後ろから一呼吸待って、アカイトリノムスメが上がってくる。しかし締まった流れを外から力強く伸びてきたのはユーバーレーベン。内から迫るアカイトリノムスメと外から追い込むハギノピリナを押さえて、見事ユーバーレーベン@デムーロマイネル悲願のクラシック制覇を成し遂げた。

勝ったユーバーレーベンはデビュー2戦目で札幌2歳Sではソダシの2着に善戦するも、その後あと一歩が届かない競馬が続いてきたゴールドシップ産駒。しかし春の大舞台で見事に逆転劇を見せつけた。前述の通り、マイネル軍団悲願のクラシック制覇は、3月に逝去した総帥、岡田繁幸氏に捧げる勝利。改めて血統を眺めてみれば、曾祖母マイネプリテンダーは氏がニュージーランドから購入した牝馬。繁殖入り後はブライアンズタイムとの配合で重賞馬を複数送り出し、クラブを支えた。ロージズインメイは何とかして種牡馬で当たりを引こうと執念の導入の1頭。そしてステイゴールドゴールドシップは氏が期待をかけ続けた種牡馬である。悲願を達成するのにこれ以上ないほどの、まさしくマイネルの結晶ともいえる配合であった。

当初の相馬眼、育成手腕もサンデーサイレンスの導入、日本競馬の猛スピードの進化の中で、晩年は陰ってしまったように見えていた。意地でも種牡馬で当たりを引こうとするあまり、牝系や騎手起用、戦略については、正直迷走している感はあった。それでもひたすらに競馬に賭けた情熱と語り口は、日本の偉大なホースマンの中でも突出したキャラクターであり、この数十年の競馬を盛り上げ続けたプレーヤーであったことは間違いない。今でも目を瞑れば浮かんでくる、独特な語り口調と悔しさを内包した発言の数々。そんな氏の夢が最後に期待をかけていた本馬で叶うのだから、これ以上ない一つの物語の結実である。

そして勝利に導いたのがデムーロというのも、また役者として際立つ。311の年にヴィクトワールピサで制したドバイWC、天覧競馬でエイシンフラッシュと見せた敬礼が記憶に残る天皇賞。社台ノーザンの結晶ともいえるドゥラメンテで制したダービー。技量だけで言えば、ルメール武豊には及ばないところであり、良いとき悪いときの起伏の激しい騎乗が目立つ騎手ではあるが、「日本競馬のストーリーイベント」には唐突に顔を出すのが、このデムーロという男である。まあ思い起こせば岡田氏がクラシック制覇に届く直前にそれを阻止したのはダイワメジャーに乗っていたデムーロであったわけだが、レース後のインタビューも含めて、どこか憎めない絵になる男。妙に昭和と浪花節を感じさせるイタリア人である。

2着アカイトリノムスメはルメールの騎乗は冴えていたが、最後の最後少し伸びを欠いた。エリザベス女王杯あたりで勝ちそう。3着ハギノピリナは展開と馬場が向いたか。しかしキズナ産駒もトライアルだけでなく、人気薄のヒモでは今後も継続的に押さえることが必要そう。8着に破れたソダシは距離も展開も向かなかった。秋華賞では巻き返せるのではないだろうか。

岡田繁幸の父、岡田蔚男氏に向けて名付けられたグランパズドリームのダービー2着から35年。ノーザンファームの3歳世代重賞19連勝で始まり、金子馬による超良血白毛馬による桜花賞制覇で、王道オブ王道で進んできた2021年3歳牝馬路線の、最後の最後がドイツ語で「生き残る」と名付けられたユーバーレーベンの勝利で完結し、岡田繁幸の悲願が成し遂げられるのだから、競馬は敗者に厳しく、辛いことも多いが、時に優しく美しい。久々に「競馬のストーリー」に胸を打たれたオークスであった。