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競馬ニュースを中心に、レース回顧、POG、一口についてのタワゴト。他にフロンターレとかアニメとか・・・でした。

【第89回東京優駿回顧】クラシックをクラシックに完結させた日本競馬史上最大の推し活は最終章ロンシャン編へ

イクイノックスが背後に迫るラスト数十メートル。ウマ娘効果でファンの裾野が広がって、コロナ禍が落ち着き、ダービーに大観衆戻ったこのタイミングで、全盛期の武豊はそこにいた。ライトも古参も全ての競馬ファンを巻き込んで、日本競馬最大の推し活は、武豊の物語を完結させるべく、悲願の凱旋門賞へ突き進んで行く。

平成の戦歴だな。ダービー前日に改めて出馬表でドウデュースの過去走を眺めると、そこにはクラシックというよりも、ノスタルジーすら感じさせる字面が並んでいる。1レースの消耗度が激しく、外厩での調整が勝負を分けるようになって久しい令和の競馬において、2歳で朝日杯FSを勝って、弥生賞皐月賞を経て日本ダービーは3歳春の3戦目。鞍上は全て武豊。しかも皐月賞は後方からの差し届かず。サンデーサイレンス全盛時代のダービーへの試走を思わせるパフォーマンスは、前目からの追走力を問われる昨今のトレンドから見れば、むしろ距離延長を嫌った消極策のようにも思えた。一方のイクイノックス。低迷期から抜け出した武豊にもう一花咲かせたキタサンブラックの初年度産駒は東スポ杯から異例の長期休養明けの皐月賞で外枠から前々を追走して2着。年明けからJRA重賞に嫌われていたルメールも先週のオークスの鮮やかな勝利で肩の力が抜けての参戦となるだろう。ただ馬体を見ても、調整過程のコメントからもダービーを勝つには1つ2つ間に合わない印象は最後まで否めなかった。シンプルにトレンドを考えると、今年こそのリーディングを狙って快走する川田を配したダノンベルーガを本命視するのは当然の流れ。共同通信杯から皐月賞は馬場の悪い内枠を通って、4着。ダービー上位人気の中では好枠ともいえる12番枠で、いつも慎重な堀師の強気なコメントをみてしまうと、この数週間の上がり目という点では最上位のように思えた。人気どころではジオグリフも気になる存在ではあったが皐月賞は全てがハマっての勝利。いくら一段上のクラスに上がって日本競馬における名騎手の一人に仲間入りしたともいえる福永祐一をもってしても、この血統、この馬体で日本ダービーを勝ちきるイメージまでは持てなかった。この10年日本競馬を引っ張ってきたディープインパクト産駒が全く馬券に絡まないとも考えにくいことから、◎ダノンベルーガ。2着にディープインパクト産駒で、3着にイクイノックス、ドウデュース。グラスワンダー応援枠でピースオブエイトという予想で当日を迎えた。

第89回日本ダービーは真夏を思わせる快晴。ちょっと前から競馬を嗜むファンが思い起こすならキングカメハメハのダービーだろうか。当日まで予定がわからなかったため、3年連続のテレビ観戦。SNSにあがる風景を見ながら、来年こそは現地に戻りたいなと考えつつ、フロンターレの試合(負け)を見てると、あっという間にパドックの時間に。SNSではダノンベルーガの歩様が話題に。究極の仕上がりか、仕上げすぎの反動か。結論はすぐそこにゲートインの時間を迎えた。

18番枠の最後にイクイノックスが収まる。人気どころは綺麗なスタート。デシエルトが積極的に前に。昨今の競馬のトレンドは全ての馬が末脚のレベルが上がったことで、前半のポジション取りが如実に結果に繋がる。ゴールで差し切れるポジションに、いかに人気馬を射程に入れながら、もしくは邪魔されないようにしながらレースが出来るか。速い流れで1,2コーナーを回ると隊列が目に入る。比較的縦長となった馬群の中団。当代イチとも言える日本人騎手二人のガツガツしたポジション獲りは、真ん中にダノンベルーガ、外にジオグリフ。枠の差もあってか川田に軍配は上がっているように見える。しかし福永祐一も決して楽をさせないようにという意思が見える外からの追走。立派になった福永祐一。最近毎週言ってるような気もするが、それでもキングヘイローの話を持ち出すのは許して欲しい。そんなことを考えているとカメラはその後ろに。

思わずTwitterに呟いてしまったが、人気馬2頭の真後ろを単独追走。弥生賞皐月賞を試走に徹することが出来た信頼と胆力があってこそ為しえた「勝てる、勝ちたい馬の1つ後ろの位置取り」。点と点が線に繋がる。それは全盛期の武豊にはそう簡単に許されなかった最高のポジションで、脳裏に駆け巡るのはアドマイヤベガウマ娘からの競馬ファンにサービスが過ぎない?この展開なら怖いのはイクイノックスと意識を画面に振ると、想定よりも2つは後ろを追走。これはもしかすると?

4コーナーを回って一気に馬群は凝縮する。外からダノンベルーガにプレッシャーをかける福永祐一。その外で一呼吸置いて、直線に入ってから冷静に馬を誘導する武豊。残り400。追い出しにかかる人気馬。もがくような走りのダノンベルーガとジオグリフを置きざりに弾けるドウデュース。残り200であっという間に先頭に立つ。うわーサンデーサイレンスだ。呟くまもなく残り100外からイクイノックスが追いすがる。やっぱり来たのはルメール。1馬身まで迫られたところでアップになったテレビに映ったその姿は、昨今の「馬を動かす」追い方ではなくて、「馬の走りの邪魔をしない。限界まで人馬一体なスマートな」追い方で、それはまさに全盛期の武豊の最後の10完歩。「武豊凱旋門賞を勝つこと」が夢であると公言する松島オーナーがもたらした50代にしてダービー6勝目のゴールの瞬間であった。

朝日杯から弥生賞で始動。鞍上を武豊に固定して皐月賞を後方からの競馬で試走とした上で、ダービーまでは在厩調整。血統、育成はともかく昨今のトレンドに背を向けたとも言えそうな過程で手に入れたダービー制覇。表に出る松島オーナーの推し活ぶりを考えると、ストーリーだけならフィクションのようではあるものの、終わってみれば戦略の勝利。ディープインパクト産駒の活力が衰え、抜けた馬が減った群雄割拠のタイミングでは他と同じことをしても勝ちは手に入らない。マイルを使って手に入れた追走力。有力各馬がフィジカル、メンタルに不安を抱えた中で、王道路線と在厩調整を歩めたタフさと陣営のケア。結果的には皐月賞で手の内を明かさずに走りきったことで磨いた末脚とマークの分散。全ては馬主、厩舎、騎手の信頼が点と点を線で繋いで呼び込んだ流れではあるわけで、ただの良い話で終わらせずに、心底拍手で称えたい。そしてアンチ武豊から入っても競馬歴が25年を超えるとこう言ってしまうのである。「やはり競馬は武豊だ」

当然ながらレース後は順調なら凱旋門賞へ挑むことが報道されている。凱旋門賞といえば、タフさを問われる馬場状態になることも多いわけで、普通に考えればマイルで勝つようなドウデュースには適性があるとは言いづらい。それでも日本競馬のレベルが凱旋門賞を勝てるレベルにあることは、もう十分な程に証明されているわけで、じゃあ日本馬がこれだけ挑んで勝てないのは何故かと言われれば、当日の天気と展開にメッチャ左右される日本馬不利なガチャゲーだからである。もうだったら単純に日本で一番強い馬で挑むのが正着となる可能性も十分あって、ドウデュースにはその資格がある。レースを走りきるまでどうなるかはわからないのが競馬ではあるが、ここまで流れを呼び込んだ松島オーナーに近代日本競馬のエンディングを賭けて信じたいところではある。ほんともう勝たせてくれ。そしてやっぱり凱旋門賞を最初に勝つ日本馬の鞍上には武豊がいて欲しいし。

2着以降も少々。イクイノックスは結果的に位置取りの差が出てしまったが、ポジションを獲れない&差し切れないのはメンタルとフィジカルがダービーにやはり間に合わなかったなという印象。体型的にも父と同じで本格化は秋以降でも不思議ではなく、評価を下げる必要はない。3着アスクビクターモアはディープインパクト産駒の意地を見せた形。この2年ほどのダービーオークスは意外と内枠、前有利とはならないトラックバイアス。弥生賞でドウデュースを完封した先行力とスタミナはやはり本物。菊花賞筆頭と考えたい。4着ダノンベルーガは正直思ったほど走れなかった。パドックでは歩様の悪さや骨瘤も指摘されていたことから、仕上げすぎてしまったと考えるべきか。ドウデュースが特別なだけでやはりこの時期のハーツクライは難しい。無理をする陣営ではないので、こちらも来年以降に本格化か。

ポストコロナを見据えて、正常化の第一歩を踏み出した中で行われた第89回日本ダービー。古参ファンからすれば、キズナキタサンブラックで一度フィナーレを迎えたとおもった武豊と日本競馬の物語が再点火したことは感慨深く、また武豊という日本競馬史上最高の騎手のスター性が松島オーナーのとんでもない推し活によって、ウマ娘あたりから入っているライトファンに間に合ったことは、とても素晴らしかったことのように思える。ダービーから凱旋門賞へ。そしてダービーからダービーへ。今日の日本ダービーを少しでも楽しんでくれた人がドウデュースの挑戦と、来週からはじまる新馬戦で次のダービー馬を探しに、少しでもハマってくれたらなという思いである。ちなみに二人目の武豊推し活オジさん、みんな大好きウマ娘サイバーエージェント藤田晋オーナーの期待馬は、来週6/4土曜日に武豊を鞍上にデビュー予定。父はドウデュースと同じハーツクライのエゾダイモン。みんな見てくれよな。そしてそういう話題馬コケるのも競馬だったりするのだ。