【第84回東京優駿回顧】悲願達成の東の名伯楽、ダービーは日本競馬を語る
低レベル、ドングリの背比べ、何が勝つか分からない。ディープインパクト産駒の小粒感が生み出したか、年明けから予想されたとおり、混戦の前評判となった2017年の日本ダービー。直前のオッズでも10倍以下が5頭。皐月賞馬の二冠か、皐月賞惜敗組の逆襲か、青葉賞組筆頭の別路線からの殴り込みか。一番人気は前走鮮やかジンクスを覆すことを期待されるアドミラブル。2番人気3番人気は皐月賞を惜敗のレイデオロ、スワーヴリチャード。皐月賞馬アルアインは4番人気に収まった。
レースはアドミラブルが青葉賞に続いてスタートに安めを売る。横山典弘鞍上のマイスタイルが行く気を見せると、アルアインも前へ。トラストは逃げ馬の後ろにつける。2コーナーを回るとグッとペースは落ちて、ダービーとは思えないようなスローペース。向こう正面に入ってもペースは上がるところが、金縛りに合ったような一団に。各騎手がスローペースの我慢の競馬と、折り合いだけに神経を集中させはじめた、その中でレイデオロのルメールだけが、スッと馬を外に出すと、全体の流れに付き合わずにポジションを上げる。一気に2番手までレイデオロについていくのは、ペルシアンナイトの戸崎。アドミラブルは前走より力みのあるところを嫌ったか、中団後方まで。隊列は変わらず4コーナーに。逃げるマイペースのマイスタイルの2番手にレイデオロ、好位の外にスワーヴリチャード、アドミラブルが外々を回って押し上げる。直線に入ると逃げ込みを図るマイスタイル。しかし馬場の真ん中からレイデオロが堂々と抜け出すと、猛然と前に襲いかかるスワーヴリチャードを押さえて、先頭でゴールを駆け抜けた。アドミラブルは最後追い込むも3着までとなった。
レイデオロを管理する藤澤和雄師はオークスに続くG1連勝で初のダービー制覇。3歳クラシックには縁がないと言われ続けていたが、定年が見えてきたここに来て、ダービートレーナーの称号を手にした。2000年代後半から勢いが落ちていたように見えた藤澤厩舎だが、ここにきての復活。しかし見方を変えれば、前走からソウルスターリングは山元、レイデオロは天栄帰り。これまでメインの外厩であるミホ牧場・ファンタストクラブを使わないことで結果が出たところに、藤澤厩舎といえど社台・ノーザン系外厩の力を借りずにクラシックは勝てないことを突きつけられた結果とも言える。とはいえ、これまでと異なる王道ローテーションを選択し、祖父シンボリクリスエス・祖母レディブロンド・母ラドラーダを管理していたことを考えれば、これまでの藤澤師の積み重ねが生んだ結果なのは確か。そして触れずにはおけないのは、もちろんルメールの騎乗。スローペースに付き合わずに馬との折り合いとポジションを獲ることが同時に出来るというのは、JRA育ちの騎手にはどうしても出来ていない芸当。圧倒的な騎乗技術の差が生まれている要因であろう。
2着のスワーヴリチャードはマイナス体重も渾身の仕上げ。四位騎手も勝つために持てる力で最善を尽くした競馬ではあったが、馬も人もその上を行かれてしまった形。まだ力を付けそうなハーツクライ産駒だけに、得意の左回りとなると天皇賞秋・JCあたりで要注意となるか。3着アドミラブルは強行日程の中、良く頑張ったが、今日動けなかった部分は使い詰め、もしくは1番人気ゆえの呪縛か。枠順含め、勝てるモノを持っていなかったということだろう。4着マイスタイルは鞍上の好騎乗。スタートからゴールまで横山典弘を十分に体現した競馬となった。アルアインは5着まで。4コーナーから直線にかけて後手後手に。馬も人もプレッシャーのなかった皐月賞とは勝手が違った。また2000mまでで出番はありそう。ダンビュライトはダービーを勝つには斬れが足りない。これがルーラーシップの限界か、2年目以降で配合・育成面での上積みがあるのかは継続に追っていきたい。
ディープインパクト産駒不調を受けて、混戦と言われた第84回東京優駿。終わってみれば、悲願が成就され、ウインドインハーヘアを母系に持つが、サンデーサイレンスを持たない馬が勝利を収めた。勝ち馬については種牡馬入り後も楽しみが多く、人も馬も、過去現在未来を含めて、日本競馬の歴史を物語る良いダービーだったと言えよう。