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【第85回東京優駿回顧】過去と自分を乗り越えて、平成最後に新たなダービージョッキーが生まれる

チャンスを掴むためには踏み出さなければならない一歩がある。しかしその一歩が原因で全てが壊れてしまったら、どれだけの人がもう一度同じ場面でその一歩を踏み出せるのだろうか?

1998年。武豊のダービー初制覇で沸く東京競馬場福永祐一は全てを最初の一歩で壊してしまった。あれから20年。恵まれた環境を享受しながら、何度となく目を覆いたくなるような騎乗で周りを、競馬ファンを落胆させてきた福永祐一は、平成最後のダービーで全てを乗り越えてダービージョッキーの称号を手に入れた。

数字だけを見れば「一流騎手」と呼んで何の差し支えもない実績を持つ福永祐一が持つイメージはやはり「勝負弱い」だったのではなかろうか。自分の乗る馬が実力最上位を前提とした事前想定のレースパターン、そこから逸脱したときに見られる脆さは、ギャンブルの参加者としては、あまりに頼りなく、見てる人に大きなストレスを感じさせてきた。その結果逃したタイトルは数知れず。ダービーだけでもワールドエースエピファネイア。直近ではビッグアーサーの記憶も新しい。

2018年のダービーデーの府中は好位から脚を使い切れなければ勝てる見込みのない高速馬場。いつもの福永祐一だったら、直線の末脚に強みを持つワグネリアンを外枠から好位つけることは出来なかったのではないか。しかしスタートして最初の50m。そこには悪夢を振り払って、一歩を踏み出す福永祐一の姿があった。思わず「前に行くんだ」と呟いた目の前で2コーナーを過ぎる18頭。皐月賞エポカドーロが逃げて、断然の一番人気ダノンプレミアムが好位の内に控える展開。しかしペースはそれほど速くならない。淡々とした流れで直線に向かうと人気薄の皐月賞馬が前に出る。ラチ沿いでダノンプレミアムはもがいている。あわやサニーブライアンの再現か、と思わせた次の瞬間、外から叩き出されて伸びてきたのはワグネリアン。一歩、また一歩とゴールに近づくその姿は、これまでとは違う攻めに攻めた結果の、勝つための騎乗であることを伝えてくる。後続の追撃も凌ぎきって一番最初にゴール板を駆け抜ける姿は、確かに過去の自分を、そして限界を越えたモノだけに与えられる栄光の瞬間であった。

勝ったワグネリアンは母母ブロードアピール、母ミスアンコール、母父キングカメハメハ、父ディープインパクトの金子馬の結晶。競馬がブラッドスポーツと呼ばれることを見事に表したというべきか、一人ダビスタここに極まれりというべきか。早い段階から高い完成度を見せていただけに、今後の成長度合いは未知数ではあるものの、馬体というかサイズからみれば男馬には珍しいディープインパクトらしいディープインパクト。未だ絞れていない後継馬争いに参戦できるか。最近のダービー馬のトレンド通りにベストは2000mであるように思える。2着のエポカドーロも距離は長いように思えたが、前評判を覆す好走。直前に調教を手控えた理由が気性面だとしたら、いつキレないかが心配にはなるが、こちらも2000m路線でワグネリアンとの再戦が楽しみになりそう。3着コズミックフォースはプリンシパルSからの好走だから人気薄も仕方がない。前々の競馬が功を奏した形だが、血統的には奥手でこちらが一番上昇が見込めるのかも。4着エタリオウは相手なりに走れるタイプ。しばらくは2着3着狙いで追い掛けたい。5着ブラストワンピースは結果的にはサンデーの血が遠すぎたか。6着ダノンプレミアムは馬体は仕上がるも気性面でダービーを勝つ仕上げには持って行けなかったイメージ。距離もいっぱいいっぱいだったか。仕切り直しての秋に期待。しかし勝ちタイム2分23秒6は馬場を考えたら少し物足りないというのが正直なところ。どちらかというと秋は別路線、掲示板を外した馬から主役が出てくるのかもしれない。その点◎ジェネラーレウーノは大敗も菊花賞向きの馬がいない今日のメンバーなら秋にもう一度狙いたい。

何かしらの不安を抱えた馬が多く、どのような競馬になるか今ひとつイメージがわかなかった今年のダービーだが、終わってみれば過去と自分を乗り越えたベテランジョッキーの戴冠という競馬の醍醐味を堪能できるレースとなった。日頃から文句をつけたくなる騎乗ばかりで、冷めた見方しかできなくなっていたのが福永祐一という騎手だったが、今日のような強気強気のレースで悲願を達成されてしまうと、その騎手人生と競馬歴がほぼ重なってしまう自分も目頭が熱くなってしまった。そう福永祐一もベテランなんだよなあ。これを契機に本物の一流騎手への道を歩むことに期待したい。やはりダービーは、競馬は面白い。改めてその想いを強くさせてくれた平成最後のダービーも終わった。明日からは2019年ダービーへの一歩が始まる。