BrainSquall

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【天皇賞春回顧】最強というエンターテイメント

2006年の天皇賞春はディープインパクトの国内キャリアのおける一つの到達点といえるレースとなった。半年前の菊花賞の回顧ではディープの走りを「適性などは関係ない絶対能力の違いを見せ付けるというというこの馬の魅力を最大に生かした満点の走り」と述べた。当時のディープインパクトは未完成という脆さをも、その圧倒的な絶対能力をもって魅力にしてしまう走りをしていたのだ。しかし天皇賞春でのディープの走りは違った。そこには「競走馬として完成した馬のみが魅せられる最強というエンターテイメント」が存在していた。

出遅れはご愛嬌。前半2000mを鞍上の、陣営の手腕をもってして乗り切ると、そこから先にあったのはまさに競馬ファンが夢に描く最強馬の次元の違う走りというものを体現したものであった。よどみない流れに周りがペースダウンしたと同時に進出し、4コーナー手前で先頭。そのまま軽やかに直線を駆け抜ける。しかも更新不可能とも思えていたレコードを1秒も短縮して。これ以上鮮やかな、最強を感じさせる走りがあるだろうか。完成したサラブレッドの凄さを見せ付けられた3分13秒4であったといえる。

そしてそのような走りを天皇賞春で見せたことは、まさにディープインパクトが近代日本競馬の結晶であることを象徴しているともいえるであろう。もし日本の競馬体系が2000m中心であったならば、3000m超というレースに格式がなかったならば、そして有馬記念での敗北がなかったならば、今もディープは本能のままに走っていたに違いない。菊花賞を絶対能力の差で勝ってしまったディープインパクトにとって、天皇賞春で3000m超に、淀の坂越えに、古馬最強の座に再挑戦したことは競走馬として彼が完成するための大きなチャレンジとなった。完成した最強馬の走りを見せるためには、有馬記念天皇賞春という舞台設定は必要不可欠であったといえる。あの「最強というエンターテイメント」はディープインパクトの国内キャリアにおける到達点というだけではなく、日本の近代競馬の到達点そのものだといってもよいのではないだろうか。

このように国内で一つの到達点に達してしまったディープインパクトにとって、次に期待されるのは海外ビッグレース制覇しかない。しかし2006年の競馬ファンが幸せなのはディープの海外挑戦が、これまでの海外挑戦とは違う意味をも帯びることだ。それはハーツクライへのリベンジである。有馬記念で唯一の負けを喫した相手にキングジョージで、凱旋門賞で再挑戦する。しかも相手はすでに海外で結果を出してきている。これ以上のシナリオはあるだろうか。まさしく競馬ファンの夢を体現する舞台がこれから始まるのである。2006年の競馬が日本競馬の一つのマイルストーンとなるはずだ。ディープインパクトハーツクライの走りを見られるのは、あと何分間もない。日本の競馬ファンはこの面白さから1秒も目を離してはいけない。