BrainSquall

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【有馬記念回顧】無敗という呪縛に負けたディープインパクト

菊花賞では競馬の面白さを見せてくれた◎ディープインパクトだが、今回は競馬の厳しさ、難しさを感じさせるレースと見せることとなってしまった。4コーナーからスムーズに進出したときはいつもの圧勝パターンだと思わせたが意外なほど直線伸びず。7.0 - 11.4 - 11.7 - 12.1 - 12.9 - 13.0 - 12.2 - 11.8 - 12.0 - 12.3 - 12.0 - 11.4 - 12.1という流れは、決してディープに厳しい流れではない。ラスト1ハロンで止まっているハーツクライを差し切れなかったのはディープが走らなさすぎといっていいだろう。このラップで上がり34.7は今までのディープには考えられない。実際の走りの印象も菊花賞で述べたような猫系の空を翔るようなと評したフォームは見せず、普通の馬の走りでしかなかった。この凡走の原因は体調不良、出来が本物ではなかったということに、ほぼ間違いないだろう。軽めばかりで中間の動きもイマイチ、1週前の写真も出来がよくなかった。直前にいつもの水曜追いを木曜に変えようとしたあたりも明らかに怪しかったし、今だからかもしれないが陣営のコメントも大丈夫と言い聞かせるようなものが多く。武豊の日記も「何の問題もない」というディープを評するにはネガティブな言い方であった。パドック菊花賞のようなオーラは感じられず。では何故ディープはここまで体調不良であったのか。

これはやはり「無敗」という看板ゆえの重圧ゆえに生まれた神戸新聞杯菊花賞での仕上げすぎに尽きるだろう。本来秋初戦はダービー馬といえども余裕を持たせて作るものだ。しかし「無敗で三冠制覇」という重い重い看板が今年の夏にディープを休ませることを許さなかった。事実陣営も秋初戦をどうやって勝って通過するかが非常にプレッシャーであったと述べている。このことが神戸新聞杯での100%近い目一杯の仕上げを要求し、結果として菊花賞こそ通過できたものの、その後完全に調子落ちにさせてしまったと考えられる。しかも体を緩めることもできないため、短期放牧でのリフレッシュなどの策をとることもできないという厳しい条件。調整は難しかっであろうし、陣営のプレッシャーも相当だったものと思われる。「無敗」という看板ゆえに前哨戦すら勝てる仕上がりを求められたこと。これが今回の体調不良の原因だと考える。

しかしそう考えると「古馬初挑戦」というエクスキューズがつけられるここで負けておけたことは今後のディープの競走人生を考えるとプラスに働くことが大きいとも言える。もしここも無敗で通過してしまったならば、ディープは今後も休養をほとんど取れずに、前哨戦から目一杯の競馬を強いられていただろう。そうなればディープ自身、また陣営にかかる負担は相当なものとなるはずで競走人生を短くする要因ともなりかねない。常に勝負の世界ではいかに上手く負けるかということが、長くその世界で結果を残し、大きい仕事をするためには重要である。今後さらにディープが飛躍していくためには今回の負けのタイミングは絶妙といってもいい。以前どこかで言ったが、「古馬初挑戦」か「海外初挑戦」しかディープが負けるタイミングがなかったと思っていた管理人としては、今回の負けはディープにとって糧になるものだと考える。

ただ来年どういうローテーションを取るかとなると若干難しいのは事実だ。早々と陣営は天皇賞春を目標にすると発表しているが、そうなると有馬記念後それほど休養を取る期間はない。来年に海外を目指すのであれば、やはりその前にリフレッシュが必要。天皇賞春で「古馬への挑戦」「淀の坂越え」という宿題にケリをつけるということはスポーツとしては面白いギミックで非常に楽しみではあるが、そこからどう海外に持っていくかは難しいところ。現実的には春天スキップで宝塚使って海外が一番妥当なのだろうが・・・。まあ厳しい条件でも結果を出すのがスターの証明とも言えるわけで、ディープの底力、成長に期待したいところだ。

さて、ここまでディープインパクトのことだけに触れてきたが勝った▲ハーツクライは素晴らしかった。ハーツクライ(とリンカーン)はとにかく何度も言ってきたとおり有馬記念宝塚記念のグランプリコースに適性を持った馬である。その点で言えば今回の好走は予想でも書いたとおり別段不思議なことではない。だが驚くべきは今までどうしても他馬しだいの競馬しかできなかったハーツクライが前目から押し切るという積極的な競馬をして勝ったことだ。これはルメールの好騎乗と、ここにきて陣営の努力が実を結んでの本格化が要因だろう。JCをレコード同タイムで走りきったことはフロックでも何でもなく、今古馬で一番強いことを証明した。今まで2着続きだったこの馬の快勝はやはり競馬の醍醐味で感じさせてくれたといえよう。

3着○リンカーンは逆に今回も他馬任せになってしまう面を解消できなかった。今後の上積みというのは考えにくく、もう一生このキャラで行くしかないかもしれない。4着コスモバルクは出来が悪そうだった割にはがんばった。やはり五十嵐騎手が一番合うのだろう。6着ヘヴンリーロマンスも今年の充実ぶりを見せ付けた走り。なおこうしてみると反動が出るかと思ったがJCと同じ着順であることが興味深い。(これには天皇賞をぶっつけで使う馬、秋G1三戦のノウハウが蓄積されてきたこともあるのだろう。)JC5着のウイジャボードが香港カップシックスセンスには完勝してることも考え合わせると、ディープインパクトゼンノロブロイの凡走はあったにせよ、今の古馬の力関係を明確にあらわしたきわめてG1らしい結果となったといえる。レーティングつける人は楽しそうだ。なおゼンノロブロイは懸念していたとおり、+12キロと完全に馬が引退モードになっていた。これでは勝てない。今回の有馬記念予想は総論ではなかなかいいところをつけていたのではないだろうか。事前に体調不良をキチンと疑ってディープの評価を下げることはできなかっただけに偉そうなことは言えないが。

なお最後にひとつ。今回もJRAディープインパクトを1頭だけフォーカスして煽ったが、このような展開はもう止めたほうが良いだろう。すでにディープインパクトは世間に浸透した。これからは競馬そのものの本質的な魅力を伝えていかなければ、今ディープを見に来たファンを今後も競馬場に繋ぎとめることはできない。実際今回負けてしまったことで「無敗」というキーワードに惹かれて見にきたファンはシラケてしまった人も多いと思われる。しかし「無敗の三冠馬」という記号は極めて限られた競馬の魅力の一面でしかない。2着続きだったが今回やっと勝てたハーツクライの物語、個性派の逃げ馬としてラストランを迎えたタップダンスシチー、道営から挑戦し続けているコスモバルク。「無敗」に惹かれる競馬ファンを否定はしないが、競馬はもっと多面的な楽しみ方があるし、魅力がある。入り口としてディープインパクトを使うことは問題ないが、そこからそのような競馬の本質的な魅力を伝えていくかということが、ディープ以後の競馬ファンを生むためには重要である。そのために戦略をもっともっと考え抜いてほしいものだ。