BrainSquall

競馬ニュースを中心に、レース回顧、POG、一口についてのタワゴト。他にフロンターレとかアニメとか・・・でした。

【菊花賞回顧】三冠の価値を再認識させてくれたディープインパクト

2005年10月23日。無敗の三冠馬の誕生を自分の目で見届けられた幸せを噛みしめながらのレース回顧。

今年の菊花賞ほど現地での観戦と、後でVTRと数字を見ながら振り返ったときの感想が異なったレースはない。まずライブで見た直後の感想を一言で言うと、ディープにとってキツイ、何とか勝てたレースだったなということ。これまでのレースとは別馬のような落ち着きを見せていたパドック。そしてデビューしてから最高のものだったスタートは、次の異変への予兆でしかなかった。これまでレース中は非常にクレバーな走りを見せていたディープが坂の下りで完全に行く気を見せてしまう。立ち上がった状態で馬をなだめながら、ホームストレッチを通過したときはスタンドはかなりどよめいていた。向こう正面でいったん落ち着くも走りはいつも軽さとは少し違う。そしてディープが自分との戦いをしている中もレースは進み、他馬は積極的な競馬を展開する。特に素晴らしかったのは3コーナーからアドマイヤジャパンが絶妙なタイミングでスパート。遅れて4コーナー手前で仕掛けるディープ。しかし馬なりの手応えながら、前との差はなかなか詰まらない。4コーナーでの差は絶望的ともいっていいものであり、スタンドには悲鳴が走った。直線でもいつも軽やかな走りではなく、必死で走る武豊ディープインパクト。気が遠くなるような一瞬の後、200mでやっとジャパンを捕らえる。大歓声に包まれつつも、無敗の三冠最終章はしかし、これまでで一番着差の小さい苦しいレースとなった。

以上がライブで見た直後の感想。やはり3000mではディープのパフォーマンスも落ちるのか。菊花賞だけ見るなら、その強さはこれまでの歴史的名馬と比べると少し物足りないものだったのかななどと思っていたわけだ。しかし東京に戻ってVTRとラップを見て、その感想は一変した。ラップを見てみよう。13.0 - 11.6 - 11.7 - 12.2 - 12.7 - 13.0 - 13.5 - 12.6 - 12.0 - 12.3 - 12.2 - 12.1 - 12.0 - 12.1 - 11.6。前半1000mは61.2で取り立てて見るべきところはない。いわゆるスローだ。しかしそこからが強烈。後ろから行っては敵わないとみるアドマイヤジャパンがラップを緩めないのだ。後半7ハロンは12秒前半が連続する超ロングスパート。コラムでも以前触れたタダのスタミナ勝負とは違う最近の菊花賞のトレンド、後半息を入れずに走る力がシビアに問われている。そしてアドマイヤジャパンはそこで最高のパフォーマンスを発揮する。ライブで見たときも素晴らしかったが数字を見ると改めて驚く。坂の下りを利用して一気に後続を引き離すここ数年の勝ちパターンに完全に持ち込んでいるのだ。つまりアドマイヤジャパンは現代ステイヤーとして歴代菊花賞馬と遜色ない走りを魅せている。本来なら他馬に4馬身をつけての圧勝だ。

しかし恐るべきはディープインパクトである。ディープは明らかに前半折り合いを欠いて消耗していた。そしてそのロスを恐れたせいか、鞍上がそれでも末脚を信じていたのかはわからないが、坂の下りの途中でどう見てもワンテンポ遅れた仕掛けとなっている。結果として4コーナーでは外に振られてしまった。スペシャルウィーク菊花賞を思い出される差し馬の菊花賞の負けパターンに嵌っているのだ。しかしここからが規格外。特に直線残り300mあたり、VTRを見るとたぶん手前を変えたところだろう。明らかに走りが変わる。いつもの豹のような猫系の柔らかく空を翔ける走り。あっという間にジャパンを捕らえての完勝だ。上がりタイムはラスト1ハロンレースラップ最速の11.6。3ハロン菊花賞史上最速の33.3である。前半掛かりながら、ロングスパートをしながら、この末脚は絶対能力が違う。器が違う。本来負けるレースパターンをその能力の差で軽がると飛び越えているのだ。この強さはこれまでの歴史的名馬とは異質。そう、もし例えるならばサイレンススズカしかいないだろう。

そして今一晩明けて思うことは本当に菊花賞は面白い、三冠は価値があるということだ。夏を越しての淀の坂越え3000mは一筋縄ではいかない。マイラー化している皐月賞、単純にベストパフォーマンスを競う日本ダービーとは違う。夏を越しての競走馬としての強さ、完成度を本当に問われるレース、それが菊花賞の位置づけだ。今年の菊花賞についていえば、ディープインパクトは坂の下りでの折り合い、そしてこれまでのどのレースよりも厳しいロングスパートという難関を淀の3000mに課されている。そしてそれに対しディープインパクトは、適性などは関係ない絶対能力の違いを見せ付けるというというこの馬の魅力を最大に生かした満点の回答で答えた。だからこの三冠は本当に価値があると今思える。

そして最後に菊花賞を面白くしてくれた、三冠に価値を持たせた横山典の最高の騎乗をもう一度触れておこう。とにかく今年のアドマイヤジャパンの走りは歴代の菊花賞馬に勝るとも劣らないものである。前半のスローを2番手で追走。一瞬ペースが緩む3コーナーから折り合いを気にする差し馬を置いて積極的に進出し、4コーナーでは後続を大きく引き離し逃げ込みをはかる。セイウンスカイで勝ったときとは違う、これが今の菊花賞を勝つための最高にして絶妙の騎乗であった。先週は自分から勝負に行かないなどと書いて申し訳ない。本当に素晴らしい走りだった。これがなければ今年の菊花賞はただの出来レースとしか思えないつまらないものになっていた。2005年牡馬クラシックは強い馬がレベルの高いレースで強い競馬を魅せるというスポーツとしての魅力を存分に詰まったものとなった。レース前後のJRAの微妙なアピールを全て吹き飛ばす最高の三冠馬の誕生を目の前で見られたことは本当に幸せだったと思う。競馬は本当に面白い。