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競馬ニュースを中心に、レース回顧、POG、一口についてのタワゴト。他にフロンターレとかアニメとか・・・でした。

【第67回有馬記念回顧】令和の競馬ブームが「まつり」から「日常」に変わりつつある新時代を象徴する圧勝劇

2016年以来のクリスマス開催となった有馬記念。まだまだコロナ禍が過ぎ去ったとは言えないながらも、徐々に姿を取り戻した世相と令和の競馬ブームを背景に、一気に客層が若返った中山競馬場に相応しい豪華メンバーが揃った一戦となった。

1番人気はイクイノックス。天皇賞秋を絶望的な位置から素晴らしい末脚で差しきった能力に加えて、枠順の有利不利が大きい中山芝2500でまずまずといえる5枠9番を獲得。中間の調教も素晴らしいというしかない万全の状態で、皐月賞以来の中山競馬場への参戦である。一方2番人気に推された古馬の総大将タイトルホルダーは負荷の掛かる馬場を走らされた凱旋門賞以来という状況に加えての昨年に続く外枠13番。展開的には主導権を握れそうなメンバーながら、自分の形に持ち込めるかは微妙な立ち位置。3番人気には母ジェンティルドンナとの母子制覇を目指すエリザベス女王杯の勝ち馬ジェラルディーナ。4番人気には相手関係は手薄だったものの、芝に転向して一気にジャパンカップを制したヴェラアズール。スランプから脱出できない昨年の覇者エフフォーリアが5番人気。その後に強いと言われる3歳世代のボルドグフーシュとジャスティンパレスが続いた。

事前の予想は上記のTwitterに投稿したとおり、適性&外枠&体調に難がある古馬牡馬勢は軽視。タイトルホルダーをイクイノックスが潰したところに、3歳牡馬と牝馬が突っ込んでくる展開を想定してレースを迎えた。

定番となってきたJRAの煽りVTR、観客の戻った師走の有馬記念らしい雰囲気を背にファンファーレが鳴り響くと、スムーズにゲートイン。2022年も有馬記念の幕が開いた。まず想定外に出遅れたのがジェラルディーナ。せっかくの内枠をゲットするも勿体ない安めのスタート。ボルドグフーシュも事前の有馬記念分析で鞍上の福永祐一が危惧していた通り、先生のスタートの腕をもってしても、二完歩目でダッシュがつかず後方からの競馬となった。若干馬券的には頭を抱えつつ、前に目を向けるとタイトルホルダーは注文通り押して押してハナへ。ごちゃつく内枠・先行勢を尻目に好スタートを決めたイクイノックスはスッと位置を下げて、エフフォーリアの後ろに収まった。憎いほどの落ち着きでルメールが最初のコーナーをやり過ごすと1周目のスタンド前で隊列は固まる。タイトルホルダーはそれほど無理せずに単騎の逃げに持ち込むも、先頭から殿までそれほど差はない状況で1コーナーを回ると前半の1000mは1.01.2。タイトルホルダーが後続に脚を使わせるというには若干遅い流れで向こう正面に入ると、そのまま更にペースは12秒台後半から13秒台で刻まれる。我慢の展開となったところで目立ったのがイクイノックス。ともすれば調子の良さゆえに行きたがってスタミナロスが考えれた場面だが、そこはルメール、柔らかい扶助と手綱捌きで一呼吸我慢させる。そして残り1000mを過ぎたところで一気にレースが動く。コーナーでセーフティーリードを確保したいが、体調もあってか手応えほどに加速しきれないタイトルホルダーを尻目にイクイノックスが唸るような手応えで加速する。それはシンボリクリスエスディープインパクトオルフェーヴル、数多の名馬が有馬記念で魅せた破壊的なパフォーマンスの予兆。そしてもう1頭。内枠でずっと我慢していたボルドグフーシュ@福永祐一がスムーズに進路を確保すると、ロベルト系の真骨頂とも言える非根幹距離小回りレースでの捲りで追撃を開始。そこには想定外のレース展開で内枠から後手後手に回って詰まる「いっくん」の姿はなく、キングヘイローでのダービーの騎乗を酷評した田原成貴に「今の姿には理想の騎手である父・福永洋一の姿を重ねることもある」とまで言わせるほどに研鑽に研鑽を重ねて辿り着いた「名手・福永祐一」の姿があった。

直線に入ると既にレースの大勢は決まっていた。ハンドライドで軽々と外から突き抜けるイクイノックスを追うボルドグフーシュ。しかしその差は詰まることなく坂上で右鞭一発、圧倒的な強さでイクイノックスが師走の中山でグランプリ制覇を成し遂げた。2着はそのままボルドグルーシュ、3着には内からばらけた馬群から伸びたジェラルディーナ。内枠を利して流れ込んだイズジョーノキセキが4着。昨年の覇者エフフォーリアは体調不良で疑問視される状況ながらも、5着に粘りこんだ。また枠順と体調に泣いたタイトルホルダーは9着に終わった。

勝ったイクイノックスは大事に大事に使われた6戦目での有馬記念制覇。そのパフォーマンスは過去の名馬に勝るとも劣らない内容。入線後も元気すぎてルメールが手綱を放せなかったというエピソードが、ハイタッチをしにいった福永からレース後に明かされているほど、その能力は計り知れない。まだまだ上がり目の見込める臨戦過程と遅咲きだったキタサンブラック産駒という血統もあって、来年はこの馬を軸に競馬が回るのは間違いない。2000m〜2400mあたりで崩れる姿は想像できず、まず春の目標はドバイシーマクラシックとなるか。タイトルホルダーが惨敗、今回のレースでも復調し切れていなかったように凱旋門賞を使うべきかは悩ましいところ。ポテンシャル的には通用するのは間違いないが、近年の凱旋門賞の結果を考えると、これほどの名馬を「凱旋門賞というコンテンツに消費」してよいかということは、正直部外者から簡単には言えないところであろう。来年の天皇賞秋・ジャパンカップでドウデュースと万全な体調で対決して欲しいという思いもある。とはいえ、血統表に目をやればトニービンダンシングブレーヴが目につくわけで、ロンシャンで走る姿が見たくないと言えば嘘になるわけで……。陣営の判断を見守りたい。ちなみに血統で言うと、父キタサンブラック、母父キングヘイローと2022年のG1勝ち馬の中で一番のウマ娘血統だったことは付記しておく。

2着のボルドグフーシュはやはり未完成の馬体とあって、スタートでついていけずに完璧な競馬とはいかなかったが、見事なリカバリグラスワンダーから受け継ぐグランプリ血統の凄みを魅せてくれた。こちらも本格化は来年であることが見込まれ、来年の天皇賞春の有力候補であることは間違いない。福永祐一がその背にいないことに一抹の寂しさはあるが、菊花賞馬へのリベンジに期待したい。3着ジェラルディーナはまさかの出遅れもあった中での3着。牡馬相手でも通用するところを見せつけた。2200から2500がベストというところで、こちらは宝塚記念エリザベス女王杯連覇が最大の目標となるか。4着イズジョーノキセキは岩田康の枠を生かした好騎乗が生んだ好走。5着エフフォーリアはレース前の関係者コメント、当日の気配を考えれば、健闘と言っていい5着。とはいえ、ピークの出来とは言えない内容で、精神面での復調も微妙なところ。来年も現役を続行するなら難しい一年になりそうだ。タイトルホルダーはとにかく体調がイマイチだったのであろう。スタート後も、3コーナー過ぎも体が動いていかないような走り。枠の不利もあってどうにも誤魔化すことも出来ず、自分の競馬に持ち込むことができなかった。凱旋門賞制覇が日本競馬のエンドコンテンツであることは間違いないが、今日のメンバーにドウデュースがいなかったことも含めて、その挑戦の代償は大きい。凱旋門賞に挑むこと自体を否定する気持ちにはなりたくないが、早く決着をつけて、日本競馬第一部を完結させたい想いが更に強くなる凡走となってしまった。

最後に2022年の有馬記念、及び競馬を取り巻く空気含めたとりとめない書き留めを少々。コロナ禍も多少落ち着いたこともあり、今年は久々の一口の口取りを含めて、競馬場で競馬を楽しむことが出来た。そこで感じたのはやはり競馬場の客層が一気に若返って、華やかになってきたということ。まさか令和の時代に、昭和の競馬ファンのような感想を持つことになるのは想像も出来なかったが、Gallopの某コラムによれば、競馬場の来場平均年齢が50代から30代に若返ったという記載もあったのだから間違いない。これはコロナ禍を奇貨とした競馬場入場ルールの変更、JRA及び関係者のコロナ禍も競馬を止めないという強い継続に向けた努力もあることながら、やはり「ウマ娘ブーム」の存在に言及しないわけには行かないであろう。ハイセイコーオグリキャップダビスタ、それ以来のビッグウェーブは、競馬界が欲しくても欲しくても手に入らなかった社会現象であることは間違いないわけで、他のエンタメ業界も羨むブームと言えよう。実際有馬記念週には、当たり前のように今まで競馬に興味がなかったような層の日常に競馬が馴染んでいることが観測された。声優が当たり前のように予想を公開し、過去の名馬に携わった関係者の偉業に改めてスポットが当たる。まさか「グラスワンダー」が令和の時代に通用するワードになるとは想像できなかった状況である。

もちろん「ウマ娘ブーム」に歪な部分があるのは事実ではある。特にプロジェクト初期の振る舞いや、自分にとって思い入れのある名馬に対する「解釈違い」については、なかなか全てを受け入れるというのは難しい。ただ2022年、有馬記念週の各種マスコミの取り扱いにおいて、過去の名馬の関係者が「再度知ってもらえることの価値」を喜んでいる姿というのは、とても素晴らしい光景であった。また「解釈違い」も競馬の持つ物語の強度ゆえに起きる事象ではある。言い古されたことであるが、新規の流入が止まったエンタメは死を待つのみである。ましてや「賭博」という要素が切っても切れない競馬にとって「世間様に認められることの価値」は他のエンタメ以上に大事な要素である。そう考えると既存競馬ファンの「ウマ娘」に対する揶揄は、個人的には「てめーの解釈違いで競馬を殺す気か」の一言で捨て置けばよいと思っている。もちろんこのブームを生かすも殺すも競馬ファンだけの話だけではない。給付金問題にせよ、イクイノックスの調教師のパワハラ問題にせよ、せっかくの名馬を関わる人の闇によって貶めるのは、非常に勿体ない話であるし、関係者及びJRAへ厳しい目線を向けるのを忘れたくはないところである。とまあ色々思いはありつつも、総体的には全ての競馬ファンと関係者、JRAの努力がこのブームを生み出し、2022年に最高の競馬環境を呼び込んでくれたことの感慨を感じながらの有馬記念だったなという感想で締めたい。

最後に宣伝。そんな令和の競馬ブームの震源ウマ娘ジャンルで頒布される蒼山サグ先生の同人誌に寄稿しました。

今回は2022年G1勝ち馬ウマ娘風レビューと、牧場見学マナー4コマのネーム。その他イラスト系のアイデアだしで参加しています。2022年登場ウマ娘完全網羅の史実年表や、各種エッセイなど、どのコンテンツも読ませる内容となっているおり、ウマ娘を切り口に実際の競馬の面白さを語り尽くす一冊となっています。是非コミケに参加される方は手に取っていただけると幸いです。通販もあると思いますので、よろしくお願いします。