BrainSquall

競馬ニュースを中心に、レース回顧、POG、一口についてのタワゴト。他にフロンターレとかアニメとか・・・でした。

【第80回東京優駿回顧】サンデーサイレンスと武豊の絆を感じる競馬の幸せ

思えば武豊という存在は、僕が競馬を始めた頃から燦然と輝く競馬のシンボルであった。当たり前のようにその勝ち続ける姿に飽きからのアンチ感情すら感じていた1990年代後半から2000年代前半。そんな武豊が苦しむのではないかという予感を、サンデーサイレンス時代の終焉に感じたとき、実は少し楽しみにしていた。しかし実際にその姿を見せられたこの数年、何ともいえないやりきれなさを消化できないでいた。確かに日本の競馬は少し武豊に厳しい方向に向かった。怪我もあった。ただ復帰後の不調から、徐々にパフォーマンスが戻り始めた中でも、乗鞍が集まらず苦しんでいる姿は、本人だけでは乗り越えられない壁の前でもがいているようで、こんな形で見たくなかったと思いが胸をかすめた。ただそれでも競馬は進む。ドバイWCを日本馬が勝利し、凱旋門賞はあと少しのところですり抜けていき、武豊がいなくても日本競馬は成り立っていた。

「イイハナシダナー」系勝利の続いた2013年春のG1戦線。そんなタイミングで迎えた日本ダービーの一番人気がキズナ武豊だったのは当然であったのかもしれない。現役を不完全燃焼で終わったローエングリンの送り出した皐月賞ロゴタイプキングヘイローワールドエースを経て、自分が乗ってG1を勝ったシーザリオの仔で挑む福永祐一エピファネイア。非情とも言える乗り代わり、チャンスも徐々に数えるほどになってきた藤澤師が挑むコディーノ。どの馬にも当然資格はあったと思えたが、やはり綺麗なのはキズナの勝利だよな。JRAの積極的なプロモーションもあってか、久々に見るような熱気に包まれた東京競馬場でぼんやりとそんなことを思いながら、第80回ダービーのゲートは開いた。

サムソンズプライドとアポロソニックが作るペースは平均より少し遅いペース。有力馬は思い思いの位置取りを取ったような向こう正面。淡々と流れて、直線に向いたとき、どの馬も力を出し切れそうな形に見えた。そんな中直線半ばで堂々とエピファネイアが抜け出そうとする。「ああユーイチがダービーを勝つ日が来るのかな、それも悪くないな」そう思った瞬間に外から伸びてくるキズナ武豊。キッチリと差しきったところがゴールだった。武豊のガッツポーズをこれほど嬉しい気持ちで見るのは初めてかもしれない。帰ってくる1頭と1人を眺めながら、ふと気づけばウオッカのダービー制覇のときと同じような力強さで拍手をしている自分がいた。

府中から帰って思い返すと、キズナの勝利は確かに文字通りいろいろな絆に結ばれていたように思う。姉ファレノプシス、ノースヒルズの生産馬。父はディープインパクト。ライバルであったことが多い佐々木晶三厩舎の管理馬であること。全ては物語になる。ただ先に抜け出した先頭に立とうとするエピファネイア福永祐一と、スローペースをギリギリのギリギリの最後の最後まで我慢した仕掛けで見事に差しきったキズナ武豊の姿を見ていると、この勝利はサンデーサイレンス武豊に、その絆の証にくれたプレゼントのように思えてならない。ダービーという大舞台であそこまで馬の末脚を信じて乗ることが出来るのは、ただの精神力、経験がなし得る物ではなく、サンデーサイレンスの最高級馬の斬れ味を知っていて、何度もサンデーサイレンス産駒を勝利に導き続けた武豊だからこそ出来たように思えるのだ。その乗り味、勝ちパターンの強烈さが近年の武豊の苦しさの最初の要因になったようには思える。しかし本当に武豊が苦しいときに、騎手人生の最後ともなるであろうターニングポイントに、その末脚の記憶が武豊を救ったのだから、今年のダービーの勝利はサンデーサイレンス武豊の絆が生んだ勝利というように思えるのである。

そしてその絆を感じることができるのは、競馬を知って好きで続けていたからこそなのだろう。競馬をしている楽しさが今日のダービーにはあった。そう、今日の競馬をみたときに福永祐一もダービーを勝つのに値する騎手になったように思えた。何年かしてそんなことを思い出させる勝利はあるのだろうか。キズナの次走には凱旋門賞が有力視されている。サンデーサイレンスとの絆を具現化した馬を武豊凱旋門賞の勝利に導く。そんな近代日本競馬の総決算をみたいような、いや、でも、そんな光景をみてしまったらエンドロールが流れてしまう寂しさを感じてしまうのだろうか。そんな想像も含めて競馬をしててよかった、そう思える第80回東京優駿であったことが幸せである。

 

参考記事:それでも武豊を中心に競馬はまわる(2004/5/24)