BrainSquall

競馬ニュースを中心に、レース回顧、POG、一口についてのタワゴト。他にフロンターレとかアニメとか・・・でした。

【第81回東京優駿回顧】ダービーに取り憑かれて

はじめてテレビで見たダービーは1996年。あの頃はまだ人気馬を追い掛けるだけで精一杯で、一番人気武豊サンデーサイレンス産駒は当たり前のように勝つものかと思っていた。あれから18年。武豊は2年後にスペシャルウィークでダービーを制し、当たり前のようにドバイで日本馬が勝つ時代となったが、あのとき2着だった橋口調教師はまだダービーを勝てていなかった。ハーツクライリーチザクラウンローズキングダム。近いようで遠いダービー制覇。そう悲願達成のドラマもまた競馬であるが、未完のまま物語が終わるのも競馬の怖さであり、魅力でもある。そしてまた関係者の数だけ物語はある。たとえば一番人気のイスラボニータ。鞍上の蛯名は凱旋門賞で2回の2着があれど、天皇賞を2連覇しても、ダービーの勝ち鞍はない。武豊がダービーを勝てていなかった、初めて見たときにはわからなかった、その難しさが今となっては歴史の重さの分だけ理解できるようになってきた。そんな思いで迎えた2014年の日本ダービー。勝ったのはワンアンドオンリー。そう、ついに競馬の神様は橋口調教師にデレた。

ドラマの主役は調教師だが、レースの主役は騎手だった。Cコースに替わった府中の馬場は一面綺麗で完全な先行、内有利の馬場状態。その是非はともかくとして、逃げ馬が回避してしまった今年のダービーポジションが、好位にあるの火をみるより明らかだった。一見すれば機動性のありそうなトゥザワールドあたりが一番その恩恵を受けそうにみえたが、1コーナーの争いを見事に制したのは武豊横山典のベテランジョッキー。一方トゥザワールド川田は後手を踏む。イスラボニータは少し掛かり気味にポジションをなんとか取る。結果としてみれば、今年のダービーはここで全てが決まってしまったようなものだった。ただその後のトーセンスターダムにとっての誤算は逃げるエキマエが故障し、早めに先頭にたってしまったこと。そして当然だが直線ラチにぶつかってしまったこと。武豊の巧みな手綱捌きをもってしても、向こう正面以降、まともの競馬をさせてもらえなかった。今年は武豊の年ではなかった。トゥザワールドは1コーナーも不味かったが、そのまま外を回ったことで完全にダービー馬たる資格を失ってしまった。川田はハープスターの騎乗といい、その真面目さが大一番では弱さになってしまう面が見受けられる。強気の前受けが彼の持ち味かと思っていたのだが、G1の舞台でそれを出し切れてないのではないか。ハープスターで我慢できるのは素晴らしいが、120%を出さねばいけないときもある。性格的なところもあるようで、経験以外の何かブレイクスルーが必要なのかもしれない。一番人気イスラボニータは掛かり気味ではあったが、正攻法の競馬。しかしそれだけで押し切れるほど府中の2400はフジキセキ産駒に優しくはなかった。遺伝子検査で2400までもつという結果が事前に賑わせたが、あくまでマイラーで終わる馬ではないというだけでしかない。クラシックディスタンスでパフォーマンスをあげるというには苦しかったという印象。ただ2000mまでなら相当な器。秋は是非天皇賞に向かってもらいたい。

そしてワンアンドオンリー横山典。これが横山典であるという競馬だった。弱さがあり後方からの競馬を続けた馬を、勝てるポジションに導く勇気。しかし角を矯めて牛を殺すようなことはなく、ギリギリで馬と折り合いをつけて、末脚を保たせる技術。直線では正攻法をする一番人気馬のすぐ後ろにつけて、完璧なタイミングで追い出す冷静さ。まさに大一番に強いというのがどういうことかを魅せつけた2分24秒だった。まさに勝つべきレースをして勝ったといえよう。本来であればこのような一発を狙える次世代騎手というのが出てきて欲しいものだが、そうでないから地方出身・外国人騎手を止められないということである。番手で押さえてロスなく勝つ岡部時代から、サンデーと共に確立された溜めに溜めて末脚を解放する武豊。その後のサンデー系の斬れ味前提でありながらも使える脚が違う馬たちを御す時代。そこで戦える騎手がもっと増えてくることを望みたいものである。

それにしても橋口調教師がダービーを勝つ。その日が来ることは例えファンでなくても、なかなか感慨深いものがあった。一時期はPOG本のインタビューなどでも定年近くを意識しながらも、もう勝てないんじゃないかといような雰囲気を感じさせていただけに、待った時間だけ熟成された格別の勝利であったことは想像に難くない。去年も書いたがダービーはやはり楽しい。そしてちょっとだけ日本競馬エンドロールはまた近づいた気もするが、しかしそんなことはなく、きっと歴史の分だけ新しい物語は続いていくのだろう。来年のダービーが待ち遠しくなる良いダービーだった。最後に福永はまだダービー勝つ資格はない。勘違いでした。あと菱田君は初騎乗であんな競馬できるんなら、もう少しサンキストロードでまともな競馬してください。