BrainSquall

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ポストSS時代と武豊の苦悩

今年の皐月賞で見せつけられた厳しさ。ひとつはマイネルのクラシック制覇への道のりだったが、もう一つ全く別の意味で、厳しい立場を見せつけられたのが武豊である。今回も抜けた馬に乗れなかった武豊は今までのSS黄金時代のような「その馬の能力のベストを尽くせば勝てる」時代が終わったことを、まざまざと感じさせられたのではないだろうか。

今回のブラックシェルの騎乗は「マイネルチャールズの能力を出し切らせない」ことに関して言えば満点に近い騎乗だったといえる。だが一方でブラックシェルのベストを出し切るということに関しては対応しきれなかった。本来クロフネ産駒は自分のペースで伸び伸び走らせて、はじめて力を出し切れる。いわば弥生賞で見せたような競馬である。だが同時にその弥生賞において、この馬の能力を出し切るだけでは皐月賞は勝てないという思いを武豊は強くしたのではないだろうか。結果として、皐月賞においては「マイネルチャールズの能力を出し切らせない」意識から、本来のブラックシェルのスムーズな競馬を犠牲にしてしまった。これは、今までのような「そのレースで一番強い馬」に乗っていた、もしくはSS産駒が多数出ているレースのような「自分の馬の能力を出し切る」イコール「レースを自分の馬の能力を出す流れ」であった競馬では起こりえなかった崩れである。ここに武豊の苦悩がある。

「他馬に能力を出し切らせない」と「自分の馬の能力を出し切る」のバランスは非常に難しい。そしてそのバランス力はG1で「一番強い馬」に乗ることではなく、「ちょっと力の劣った馬」に乗ることで鍛えられる力だ。これは「強い馬に乗ってレースをコントロールする力」とはまた違う。現役でいえばアンカツ、引退した騎手でいえば的場均が圧倒的に誇っていた能力である。SS黄金時代においては「自分の馬の能力を出し切る」イコール「SS産駒の流れで競馬をする」であったがために、多少力が劣る馬に乗っても「SS産駒の力を出し切る」圧倒的な技術力を持っていた武豊にはそのバランスは大きな問題ではなかった。

だがポストSS時代となり、レースの流れと自分の能力がフィットする馬が勝ち馬となる時代が戻ってきた、そして各馬の適性がバラバラになった時代となった結果、このバランス力はG1において大きくモノをいうようになってきた。そしてこのバランス力はG1において目標にされる騎手ほど発揮するのが難しい能力である。これまでずっと「そのレースで一番強い馬」に乗り続けてきた武豊が、自らが目標とされる中で、そのバランス力をG1で発揮するのは非常に困難な道のりであるといえよう。HP内でも「なにか」を求めてしまうことを吐露する武豊の苦悩の日々はまだまだ続くのではないだろうか。