BrainSquall

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初心者のためのディープインパクト講座

いよいよ今週に迫ったディープインパクト凱旋門賞挑戦。マスコミでも盛り上がりを見せて、世間では競馬を知らない人でもディープインパクトの名前くらいは知ってる人は結構いるようで。ただ実際そういう今まで競馬に全く興味のなかったターゲットにディープインパクト凱旋門賞挑戦について、説明しようと思うと意外と難しい。そういう記事もないし。ということで凱旋門賞を迎えるにあたって、初心者のためのディープインパクト講座を書いてみる。普段ここ読んでる人にとっては暇なエントリ。大まかにディープインパクトってどんな馬?と凱旋門賞ってどんなレース?の2点に絞っての連載予定。というわけで第一回はディープインパクトってどんな馬なの?どうして騒がれてるの?というところから。

10月1日の凱旋門賞に出走するディープインパクト。何故にこの馬がこれほどまでに騒がれているのか。これは彼が「日本の競馬史上でこれ以上ない程の王道を圧倒的なパフォーマンスで駆け抜けてきた」からである。野球に例えてみると、親父はプロ野球選手、超有名高校の1年目から4番でエース、総ての大会記録を塗り替えて甲子園を3連覇、プロ入りしたら、ルーキーで22勝1敗、防御率1.02、200奪三振。で、総てのプロ野球記録を塗り替えて、メジャー挑戦って感じか。芸能人なら16歳でデビューしたら、出すCDは常にオリコン1位、初主演の映画で、総ての日本の映画賞を総なめにして、ハリウッド&全米デビューみたいな。ガンダムなら最初の戦闘で核エンジンを爆破させることなくザク撃破。宇宙最初の戦闘でシャアザクを撃破、地球上陸してグフを一撃、ジェットストリームアタックも最初のアタックで踏み台にして、シャアズゴックはジムがつぶされる前に撃破、ギャンは一撃で粉砕、当然シャアゲルググも秒殺(以下略 それくらいディープインパクトという馬はここまで日本競馬の王道を鮮烈な走りで駆け抜けてきたわけである。

では実際ディープインパクトの戦跡をみてみると、こちらのようになる。11戦10勝。もうなんていうか凄い1着ばっかり。その中でやはり光るのが皐月賞日本ダービー菊花賞の3レース、いわゆる三冠レースの勝ちっぷりである。ここで知らない人のために競馬における三冠とは何かを簡単に説明してみる。この3レースはサラブレッドが3歳時のみ出走できるG1(レースのランク、当然一番上)であり、日本に生まれたサラブレッド総てが目指す(最近は例外もあり)3つのレースである。つまり基本的に日本に生まれたお馬さんたちはみんな3歳の間にこのレースを一つでも勝てるように目指して鍛錬に励むわけだ。野球における甲子園、ラグビーにおける花園、サッカーのおける国立みたいなものだ。この三冠を今までに制した馬は日本の競馬史上6頭しかいない。セントライトシンザンミスターシービーシンボリルドルフナリタブライアン、そしてディープインパクト。60年の歴史で6頭。いわゆる10年に一度生まれるような強い馬だけが、この3つレースを勝つことができることがわかる。では何故に三冠が困難なものか。その最も大きな理由は「一度しかチャンスがない上に、3つのレースに求められる能力が総て違うから」である。

まずは最初にあるのが4月の皐月賞。日本のサラブレッドは2歳の6月から〜12月あたりでデビューするのでデビューからだいたい半年後に行われるレースである。ここで求められるのは「まだ若いうちから能力を発揮できる成長の速さと、速いスピード、そして器用に操る能力」となる。なぜこのような能力が求められるかというならば、皐月賞が行われる中山競馬場2000mという舞台は比較的半径の小さいコースで行われる中距離戦だからだ。競馬はだいたい1000mから3200mで行われる。これは人間で言うと100m〜400mと考えていい。そのなかで2000mという距離はいわゆる中距離、ある程度のスピードが求められる距離である。しかも半径の小さな競馬場で行われるとなると、求められるのは速いスピードと器用さということになるわけだ。

ただしディープインパクトはここで器用さについてはクリアしていない。んじゃ何で勝てたのよといわれたら「スピードがありすぎたから」という答えになる。本来は最初から前のほうで走らないとなかなか追いつけないレースでディープは派手に出遅れてしまっている。しかもレースの後半、小回りのコースの一番外側を乱暴に走って前に追いつこうとしたのだ。普通こういうことをする馬は勝てないというのが競馬の常識だった。しかしディープインパクトは最後の直線だけで他の馬をごぼう抜きにしてしまったのである。この時点でディープインパクトはその能力の高さとパフォーマンスの派手さを競馬界に知らしめて、一躍スターになったわけである。

次に日本ダービー、これは6月に行われる。このレースは東京競馬場2400mという舞台で行われるレースだ。ここで求められるのは「疲れても怪我をしないで耐え抜く丈夫さと、スピードとスタミナの絶対値の高さ」である。だいたい日本のサラブレッドはいったんデビューすると、ダービーまではほぼ休みなくレースに出ることになる。これはG1レースに出るためには前哨戦で好走しないと出走権が得られないからだ。つまり予選に近いものがずっと行われてきたなかで夏前に最後に行われるのがダービー。いわゆるトーナメント方式の決勝に似た雰囲気と思ってもいい。このレースでディープインパクトは当然のごとく圧勝した。ちなみに時計はレースレコードタイ、着差は5馬身差での文句なしの勝利である。

そして最後の菊花賞。夏を越えて10月京都競馬場3000mで行われるレース。このレースには「夏を越して強くなってきた馬たちを退ける成長力、かつ3000mという距離を走りきるスタミナ、精神力」が求められる。まず行われるのが秋ということで、春には賞金が足りずダービーに間に合わなかった馬が出てくる。彼らは夏の間に成長して春に実績を残した馬に挑戦してくる。そして3000mという距離だ。いくら肉体的なスタミナがあったとしても、3000mという長い距離を走りきるには強い精神力が求められる。しかも京都競馬場というコースは二度も坂の上り下りがあり、お馬さんたちにとっては非常に走りづらいコースなのだ。焦ったら負けなのだ。

ではディープインパクトはそれも軽々とクリアしたのか。実は結構苦戦したのだ。というのもディープは走ることに一生懸命になりがちな馬だったので、ちょっとしたことでついつい力んで走ってしまう傾向が当時あった。そのため1周目で騎手との意思疎通に失敗して前に行こう行こうとしてしまった。これは本来の菊花賞では負けてしまうパターンであった。しかしディープの凄いところはそのような状況にもなったに関わらず、それを肉体的なスタミナとスピードの違いで勝ちきってしまったことにある。負けパターンをも絶対値の高さで乗り切ってしまったのだ。

このようにディープインパクトは当時完全無欠な馬ではなかった。しかしあまりに強かったために、そのような弱点を吹き飛ばして三冠をとってしまったのである。このような馬は本来三冠にはなれない。しかし過去の三冠馬をも圧倒するパフォーマンスで勝ってしまったことにディープインパクトの3歳時における魅力が詰まっているといえよう。

しかしさすがのディープも三冠制覇はきついものだったらしい。ディープの無敗伝説は次の有馬記念で止まってしまう。初めての年上の馬との対戦でハーツクライという馬に負けてしまうのである。今もなおはっきりとした敗因は不明だが、やはり無敗の三冠というプレッシャーで馬に疲れがきたことが一番大きいだろう。ハーツクライという馬はその後、海外でも勝ち星をあげ、凱旋門賞と並んでランクの高い海外レースでも3着に入る世界レベルの馬だ。そのような馬相手ではディープインパクトといえども疲労が残る状態では勝てなかったのもある程度仕方ないことだろう。

その後4歳になったディープインパクトは、さらに輝きを増した。特に4月に行われた古馬(4歳以上の年上の馬)最高峰のレース、天皇賞春のレース振りは素晴らしいものだった。3歳時のディープインパクトはところどころまだ子供のようなところがあり、危なっかしいところも多かった。しかし天皇賞春では京都競馬場3200mという菊花賞同様タフなコースにも関わらず、きちんと騎手の指示に従い走りきった。しかも本来だったらまだスパートしては早すぎるタイミングでスパートして、そのまま押し切ってのレコード勝利。更新することは相当難しいと思われていた時計を塗り替えての勝利だった。まさに完成したサラブレッドが魅せる最強を具現したような走りであったのである。当然海外壮行戦となった次の宝塚記念というG1レースも苦手と思われていた雨もものともせずに勝利した。

このようにディープインパクトは考えうる限りの王道を完全にぶっちぎって駆け抜けてきている。競馬ゲームでもそりゃないだろ。という成績である。確かに過去に日本の競馬にもこれは最強なのではないかと思われるような馬はいた。しかしディープインパクトのような日本競馬の王道を見るものを圧倒的な能力とパフォーマンスで初めてといってよい。だからこそスターホースとして騒がれ、今回の凱旋門賞挑戦は大きく取り上げられているわけである。このへんでディープの説明はおしまい。次回は「で、凱旋門賞ってどんなレースよ?てか勝てるの?」について。乞うご期待。でも後半素人はついていけてないような・・・。