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日本ウマ科学会・第18回学術集会レポート・その2

2、VHRmaxを用いた競走馬の体力評価(猪瀬友樹)

続いて競走馬の体力評価について。前半は一般論、後半はディープインパクトの個別データを見ていく形。こちらも口演に沿っての書き起こし。

1)一般的な体力評価について

競走馬の体力評価については主観的なものと客観的なものに分けられる。主観的なものとして挙げられるのは「調教の動き」「調教後の呼吸」「汗のかきかた」、客観的なものとしては「最大酸素摂取量」「血中乳酸値」「心拍数」「スピード」などが挙げられる。研究の対象としては当然客観的なものが中心となるが、最大酸素摂取量は大掛かりな設備が必要、血中乳酸値は運動直後の採血が必要となるため、現実的ではない。そこで「心拍数」「スピード」が研究対象となる。

競走馬レースにおける運動について分析すると無酸素運動有酸素運動の比率は「1000mで30:70」「1600-1800mで21:79」「2500-3000mで14:86」となっており、有酸素運動の占める割合はどの距離でも極めて高い。そのため心拍数とスピードについて調べることは意味があることと思われる。

競走馬の心拍数とスピードの関係を調べてみると、まず安静時の心拍数は平均36程度であるが、調教時は200前後、調教後は100前後となることがわかっている。また心拍数はスピードが上がることに上昇していき、最大心拍数に達するとそれ以上はスピードがあがっても心拍数は変わらない。つまり最大心拍数に達するまでは心拍数とスピードは比例の関係になっているのがわかる。そこで「VHRmax」と呼ばれる最大心拍数になるまでのスピードの値を調べることで競走馬の有酸素能力の測定が可能であると考えられる。これを測るためにGPS機能つきの心拍計を使用した。これは鞍の下に挟み込むようにつけるもので腹帯のところに電極、鐙の後方のゼッケン下にGPSのアンテナがついているもので調教の邪魔をすることなく、競走馬の移動距離、時間、スピード、心拍数を記録することが可能である。実際に栗東のウッドコースで計測をしたところ次のような結果が得られた。

2歳:13.4±0.9

3歳:14.6±1.6

2歳:14.0±1.3

2歳:14.8±1.4

2)ディープインパクトについて

ディープインパクト皐月賞まではウッドコースのみ、ダービー以降は坂路とウッドコースで調教されている。ディープインパクトのデータで特徴的なのは次の通り。

・安静時心拍数については「2歳10月:38」「弥生賞:36」「ダービー:32」「秋:30を切る」となっており、成長とともに心拍数が少なくなっている

ディープインパクト曳き運動程度では心拍数は50前後から変化しない。これは古馬には珍しくないが、2歳からそうであるのは珍しい。

・調教後心拍数が100まで戻るのは弥生賞までは8分と平均的であったが、皐月賞以降は3分で戻っている。ダービー後は坂路調教を加えて負荷が高くなっているにも関わらず、3分程度で戻っている。

・VHRmaxは入厩時には平均的であったが、その後新馬戦までの2ヶ月で16を超えてほぼ完成。その後は変化がなく、夏も札幌競馬場で鍛錬を積んでいたため、大きな変化はみられなかった。

以上が口演の内容。個人的に気になったのはGPS機能つきの心拍計により馬房から曳き運動、調教、クールダウンにいたるため全ての移動距離、スピード、時間が測られることが可能であったことが衝撃的。これがどの馬にも採用されればトレセンの競馬新聞時計班いらないし、坂路調教のようにJRAVANによる配信が可能ということになる。すげー。早く実用化希望。またグラフによると調教後心拍数が100を切るまでの時間が弥生賞の調教後だけやたら長かった。弥生賞が接戦の理由は体調が万全ではなかったというのもあるのかもしれないと思った。